最近の労使間トラブルに関する裁判例


裁判例10:業務起因性

東京地方裁判所平成28年4月18日判決(判例タイムズ1427号156頁)

 本件は、保険会社の営業課に所属していた男性従業員が、残業時間中に嘔吐し、その後、直静脈洞閉塞症と診断され高次脳機能障害を負ったことにつき、療養補償給付等の不支給処分取消を求めた事案である。

 東京地裁は、最高裁の判断(①「労災保険法に基づく保険給付は、労働者の業務上の負傷、疾病、障害または死亡について行われるところ(同7条1項1号)、労働者の傷病等を業務上のものと認めるためには、業務と当該疾病等との間に条件関係があることを前提としつつ、両者の間に法的にみて労災補償を認めるのを相当とする関係、すなわち相当因果関係が認められることが必要である」(最高裁昭和51年11月12日参照)。②「上記の相当因果関係を認めるためには、当該疾病等の結果が、当該業務に内在する危険が現実化したものであると認められることが必要である」(最高裁平成8年1月23日、最高裁平成8年3月5日参照)。③「業務の内容自体が特に過重なものとはいえず労働者の疾病を自然の経過を超えて著しく増悪させるものと認められない場合であっても、労働者の疾病が客観的に見て安静、治療を要する状況にあるにもかかわらず、労働者において休暇の取得、業務の中止などにより安静にして治療を受けるための方法を講じることができず 、引き続き業務に従事しなければならないような事情が認められるときは、そのような客観的状況に置かれていること自体が業務に内在する危険であるということができる。した がって、このような事情の下に業務に従事せざるを得ず、安静にして治療を受ける機会を喪失した結果、労働者の疾病が自然経過を超えて増悪し、重篤な症状に至った場合は、業務に内在する危険が現実化したことによるものであり業務に起因するものというべきである」(最高裁平成8年1月23日、最高裁平成8年3月5日参照)。)を前提とした上で 2 、「治療機会を喪失したことによる疾病増悪につき業務起因性を肯定するためには、業務に従事せず安静治療の機会を得ていたら疾病の増悪は発生しなかったという相当因果関係が認められる必要があるが、そのためには、①業務に従事した期間に疾病が増悪したこと 、②業務に従事した期間に安静、治療をすれば疾病の増悪はなかったこと、③労働者の役割、業務の性質等に照らし当該労働者の就業が避けられなかったことをそれぞれ満たす必要があるというべきである」との基準を示し、「本件事件当日の残業により治療機会を喪失し、本件疾病が増悪したとして、業務と本件疾病の増悪に相当因果関係があるとは認められない」として、原告の請求を棄却した。