最近の労使間トラブルに関する裁判例


裁判例20:65歳定年後の再雇用契約の成立

東京地方裁判所平成28年11月30日判決(判例タイムズ1436号151頁)

 本件は、大学等を設置する学校法人との間で、期間の定めのない労働契約を締結して10年間、専任教員として勤務し、定年(65歳)を迎えた者(以下、原告という。)が、学校法人の就業規則において、専任教員の定年は、満65歳に達した日の属する学年度の末日と定められているが、この特例として、「理事会が必要と認めたときは、定年に達した専任教員に、満70歳を限度として勤務を委嘱することができる。」との特別規程があり、これまで、定年後も引き続き勤務を希望する専任教員については、同規定に基づき、特別専任教員として、70歳まで1年間ごとの嘱託契約を締結していたにもかかわらず、原告については、学校法人より、嘱託契約は締結せず、定年をもって雇用を終了する旨の通知を受けたことについて、労働契約法19条2号の雇類推適用によって、特別専任教員としての労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めた事案である。

 東京地方裁判所は、以下のとおり判示した。

 労働者において定年時、定年後も再雇用契約を新たに締結することで雇用が継続されるものと期待することについて合理的な理由があると認められる場合、使用者において再雇用基準を満たしていないものとして再雇用をすることなく、定年により労働者の雇用が終了したものとすることは、他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情がない限り 、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、この場合、使用者と労働者との間に、定年後も終業規則等に定めのある再雇用規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当である(労契法19条2号類推適用 、最高裁平成24年11月29日判決参照)。

 本件の特別規程の文理上は、「理事会が必要と認めたとき」には、特別専任教員として1年毎の再雇用契約を「委嘱する場合がある」と記載されており、委嘱することが原則で あるとまで読み取ることができないことを十分考慮しても、本件の事情のもとにおいては 、原告において、定年時、嘱託契約を締結し、70歳まで雇用が継続すると期待すること が合理的であると認められる。

 学校法人は、原告との間で再雇用契約を締結したと擬制されるとしても、その雇用期間は平成28年3月31日までの1年間に限定されるべきであると主張するが、いったん労働者に継続雇用への合理的期待が生じた以上、合理的期待を減殺するような事情がない限り、使用者が就労を拒否している訴訟期間中も労働者の雇用継続に対する合理的期待は持続されているものと解するのが相当である。したがって、定年後の再雇用契約の期間満了時(平成28年3月31日)に、再度再雇用契約が更新されたものと同様の法律関係になる。