最近の労使間トラブルに関する裁判例


裁判例5:業務委託名目の契約の労働契約性

東京地方裁判所平成28年8月19日判決(判例タイムズ1433号186頁)

ITソリューション事業(組み込みソフト、WEBソフト、業務系システム、インフラなどの開発)などを行う会社(以下、被告会社という。)と業務委託の名目で契約(以下、本件契約という。)し、営業支援等の業務を行った者(以下、原告という。)が、本件契約は労働契約であって、被告による契約終了の意思表示すなわち解雇の意思表示は、解雇権を濫用したもので無効であるとし、労働者としての地位の確認、未払賃金等などを請求した事案において、(1)本件契約の形式面(秘密保持契約書などに「退職」という文言が記載されているが、従業員用の雛型を流用したものと認められること、また、秘密保持契約書などの作成時点においては、原告と被告会社との間で本件契約の労働契約性は問題となっていなかったこと)、(2)当事者の意思(①原告は被告会社の代表者に直接電話して面接が実施され、また、原告の被告会社における肩書は原告の意見を聞いて決めたなど、原告は被告会社と対等の立場で協議したこと、②原告は、紛争顕在化後に被告会社に対して本件契約が雇用であると述べるようになったこと)、(3)指揮命令下の労働(原告は、被告会社から、勤務表、休暇・遅刻・早退の届出、日報の提出をすることを求められていなかったこと)、(4)報酬の労務対価性(被告会社の代表者は原告に対し、成果が上がれば報酬の増額を考える旨供述したと認められるから、報酬は原告の業務の成果に対する対価としての性質であったと認められ、労務提供の対価であったとは認められないこと)、(5)事業者性(原告は、他の会社の代表取締役としても並行して業務を行っていたこと、原告は被告会社の外部の事業者として報酬を請求していること、原告が本件契約の業務に使用していたパソコンは被告会社が用意したものであるが、被告会社は、機密保持のために原則としてパソコンの持ち込みを認めていなかったこと)などの観点から総合的に検討すると、本件契約は請負契約としての業務委託契約であったと認められ、労働契約であったとは認められないとして、原告の請求を棄却した。