最近の労使間トラブルに関する裁判例


裁判例12:医師に対する割増賃金支払義務の有無

東京高等裁判所平成27年10月7日判決(ジュリスト1505号224頁)

 本件は、医療法人に雇用された医師が解雇されたため、解雇無効確認などに加え、当該解雇までに発生したとする時間外労働に対する割増賃金等を請求した事案である。

 東京高裁は、解雇無効確認などの請求には理由がないとしたうえで、①医師の業務は人の生命身体の安全に関わるもので、労働時間の規制の枠を超えて活動することが要請されるから、労働基準法による労働時間の規制を及ぼすことの合理性に乏しく、その質ないし成果によって評価することが相当といえる。ゆえに、原告医師の賃金を質や成果で評価し 、時間外労働分につき、一定額を予め年俸ないし月給給与に含めて支払うことには合理性 がある。②原告医師は、患者の診察及び治療行為という医師の主たる業務に関して、被告医療法人の管理監督下ではなく自らの裁量で律することができたから、原告医師の通常の時間外労働に対する賃金について、時間数で算定しなくとも、特に労働者としての保護に 欠けるおそれがない。③原告医師の給与は、相当高額で好待遇であったといえ、通常業務の延長としての時間外労働に係る賃金分が含められていると解しても何ら不合理ではない 。④基本給部分と時間外割増賃金部分とは明白に判別できないが、本件時間外規程が時間外手当等を具体的かつ明確に規定し、原告医師は、これに基づき同手当を請求・受領しているから、明白に判別できないことは、原告医師の年俸契約額あるいは月給給与額に時間外労働賃金分が含まれることを否定する理由にはならない。他方、深夜及び月60時間を超えた部分の割増賃金については、本件時間外規程に定めがなく、月額給与に含めて当該割増賃金が支給されたと解すべき理由もない。

 以上から、本件雇用契約及び本件時間外規程は有効と認められ、深夜割増賃金及び月60時間を超えた場合の割増賃金を除く、通常業務の延長とみなされる時間外労働賃金については、月額給与に含めて支給されたと解されるとした。 そして、本件時間外手当、当該時間外の深夜割増賃金、並びに月60時間を超える時間外労働の割増賃金を算定する基礎時給額は、基本給に役付・職務・調整の各手当を含め 月給給与を月平均所定労働時間で除した金額であるとした。