最近の労使間トラブルに関する裁判例


裁判例17:労働者の新規採用契約においてその適正の評価・判断のために設けられた期間の性質

最高裁判所平成2年6月5日判決(判例タイムズ734号94頁)

 本件は、私立高校に1年の契約期間で雇われた常勤講師が、期間満了による雇止めに対し、教諭の地位確認と雇止め以降の賃金の支払いを求めた事案である。

 最高裁は、以下のとおり判示した。

 使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適正を評価・判断するためのものであるときは、右期間の満了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、右期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である。

 そして、試用期間付雇用契約の法的性質については、試用期間中の労働者に対する処遇の実情や試用期間満了時の本採用手続の実態等に照らしてこれを判断するほかないところ、試用期間中の労働者が試用期間の付いていない労働者と同じ職場で同じ職務に従事し、使用者の取扱いにも格段変わったところはなく、また、試用期間満了時に再雇用(すなわち本採用)に関する契約書作成の手続が採られていないような場合には、他に特段の事情が認められない限り、これを解約権留保付雇用契約であると解するのが相当である。

 そして、解約権留保付雇用契約における解約権の行使は、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認される場合に許されるものであって、通常の雇用契約における雇用の場合よりもより広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきであるが、試用期間付雇用契約が試用期間の満了により終了するためには、本採用の拒否すなわち留保解約権の行使が許される場合でなければならない。

 本件雇用契約締結の際に、一年の期間の満了により本件雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が上告人と被上告人との間に成立しているなどの特段の事情が認められるとすることにはなお疑問が残るといわざるを得ず、このような疑問が残るにもかかわらず、本件雇用契約に付された一年の期間を契約の存続期間であるとし、本件雇用契約は右一年の期間の満了により終了したとした原判決は、雇用契約の期間の性質についての法令の解釈を誤り、審理不尽、理由不備の違法を犯したものといわざるを得ず、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。したがって、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。