最近の労使間トラブルに関する裁判例


裁判例57: 窃盗行為に対する懲戒処分

東京地方裁判所平成30年10月25日判決(判例タイムズ1465号177頁)

 

 本件は、幹部自衛官であった原告が、複数回にわたりコンビニで窃盗行為を行ったことを理由に懲戒免職処分を受けたため、原告が、①窃盗行為自体存在しないし、仮にあったとしても、それは若年性認知症の影響によるもので懲戒事由に当たらない、②仮に懲戒事由に当たるとしても、懲戒免職は裁量違反である、③本件処分には手続き違反があるなどと主張して、処分取り消しを求めた事案である。

 

 裁判所は、②③を理由に処分を取り消した。

 

 まず、①については、懲戒事由とされた窃盗行為は、それぞれ栄養ドリンク1本を盗んだ計2回のみ認定できるとしつつも、これは自衛隊法上の懲戒事由に該当することは認めた。そして、この際に原告に若年性認知症の影響があったかについては、本件での事実認定に照らして、事理弁識能力や行動制御能力につき「減退が著しい程度に至っていたと認めることはできない」と述べて、「懲戒事由に該当するとの限りにおいては、その判断を左右するものではない」とした。

 

 次に、②については、海上自衛隊においては「処分基準が懲戒処分の種類及び程度を決定するために必要な基準を具体的に定めてお」り、懲戒権者は「原則として、被告処分基準に従って懲戒処分を選択すべきもの」とする。そのうえで、本件事実に照らすと、「被害の程度は軽微であり、態様も特段悪質とはいえないことに加え、前判示に係る被害弁償、過去の処分歴、若年性認知症等の事情を総合すれ」ば、「停職処分が相当であった」とした。

 

 また、③については、処分権者が自衛隊法施行規則85条2項によって、審理を省略したことについて、「審理は被処分者において、主張、立証を通じて、処分事実の認定や懲戒処分の量定に自らの主張を反映させていく重要な機会」であるから、上記施行規則が適用される場合は厳格に判断すべきところ、本件ではその要件を充足しておらず、「処分を科す手続に重大な瑕疵があり、この点でも違法」とした。