最近の労使間トラブルに関する裁判例


裁判例54: 支店長の管理監督者該当性とみなし残業代

東京地方裁判所平成30年3月16日判決(判例タイムズ1463号155頁)

 

 本件は、従業員が、未払い賃金等を請求したところ、会社側が、同従業員は管理監督者に該当すること、未払いと主張する部分にはみなし残業代として既払い部分がある等と反論した事案である(その他の請求は省略)。

 

 裁判所は、以下のように述べて、原告の請求を認めた。

 

 まず、管理監督者性については、「①業務内容、権限及び責任の重要性、②勤務態様(労働時間の裁量、労働時間管理の有無・程度)、③賃金等の待遇を総合的に考慮して判断するのが相当」と述べて、それぞれの要件を充足するかを検討した。

 

そして、①については、「原告は一定の権限、責任を有していたとは認められるものの、自らの労働時間を減らすための権限や、自らの待遇向上に効果的な権限は限定的であった」ことを、②については、「原告は労働時間を管理されており、かつ、労働時間の裁量性は低かった」ことを、③については、「管理監督者にふさわしい待遇にあるとはいえない」ことを、それぞれ認定して、管理監督者性を否定した。

 

次に、みなし残業代については、「弁済としての効力を有するためには、労働契約における基本給等の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分とみなし残業代に当たる部分とを判別することができること(明確区分性)が必要であり、かつ、みなし残業代に当たる部分がそれに対応する労働の対価としての実質を有すること(対価性)が必要とされる」と述べて、それぞれの要件の充足を検討した。

 

 そして、明確区分性については、「被告のみなし残業代は、金額及び時間は明確に記載されているものの、その金額の中に残業代以外の趣旨も含むこと、時間がいかなる労働時間に対するものなのか明確ではない」ことから充足しないとし、対価性については、先に述べた他の趣旨が含まれていることに加え、「金額と時間との対応が明確でないこと、適切にみなし残業代の清算が行われていたとは認められないこと」から、やはり充足しないとして、有効なみなし残業代とはならないとした。