最近の労使間トラブルに関する裁判例


裁判例50: セクハラと懲戒処分の限界

東京地方裁判所平成30年1月12日判決(判例タイムズ1462号160頁)

 

 本件は、女子大学の教授が、セクハラを理由に免職処分を受けたため、免職の無効を理由とする地位確認と賃金等の請求、及び損害賠償を請求した事案である。

 

 裁判所は、セクハラの事実は認定し、損害賠償は否定したものの、免職は無効として賃金等請求は認めた。

 

 まず、免職処分の前提として、労働契約法15、16条を確認した上で、「懲戒解雇は最も重い懲戒処分であり、労働者を失職させる上、労働者の名誉に悪影響を与えて再就職の障害となり、退職金の不支給という経済的不利益も伴っ」て、普通解雇「を超える不利益をもたらすことになるから、懲戒権の行使の中でも特に慎重でなければならない」とした。

 

 そのうえで、処分事由となったセクハラ行為のうち4項目を認定して、「その主因は原告の幼稚で、非常識な感覚が認めら」れ、女子大学「ではハラスメント根絶の必要性が高いから、原告の職歴や地位に照らしても、相応の懲戒又は人事上の措置が必要」とした。

 

しかし、「セクハラの程度が著しく重大・悪質な態様、程度のものであるとはいえず、原告にわいせつな意図があったとも認めるに足りない。原告には不十分ながら謝罪や反省の意思も認められる。また、被告が考えるように原告が再び同種の行為を繰り返すおそれがあるというに足りる客観的に具体的な根拠は認めるに足りない」ほか、「本件免職以外の懲戒及び人事上の措置による対処の可能性も十分に検討されていない。情状事実としての加害者と被害者との人間関係、それらが加害者の認識、意図等に与えた影響等も十分に考慮されていない」として、本件免職は無効とした。また、その限りで、控除額を認定した上で、賃金等請求を認めた。

 

なお、普通解雇の可能性については、被告が「予備的にでも普通解雇するとは一切主張していないから」、普通解雇の主張として不十分とした。

 

 他方、損害賠償請求については、懲戒事由自体は存在し、手続きも慎重であったこと、及び、賃金等の請求認容「の限度で本件懲戒解雇による精神的、経済的損害は回復する。そもそもの発端は原告の不適切な言動であり、一定限度の不利益は、自己の不適切な言動による自業自得の者と甘受すべきである」として認めなかった。