最近の労使間トラブルに関する裁判例


【動画解説】裁判例解説vol.2

タクシー会社による男性運転手の化粧を理由と就労拒否につきまして解説動画を公開しました。真ん中の矢印ボタンを押してご視聴ください。※音声が流れますのでご注意ください。

裁判例77:使用者が性別不合の労働者に対し化粧を施しての就労を拒否したことが使用者の責めに帰すべき労務提供の不能とされた事例

大阪地方裁判所令和2年7月20日判決(判例タイムズ1481号168頁)

 

 本件は、性別不合(生物学的には男性だが、性自認は女性)を持つタクシー乗務員(債権者)が、顔に化粧をして乗務を行っていたところ、会社(債務者)から、①客からの苦情の存在、②化粧が客に違和感や不快感を与えること、を理由として就労を拒否されたため、その間の賃金につき仮払いを求めた事案である。

 裁判所は以下のように述べて、乗務員の請求を一部認容した。まず、①については、「本件苦情の内容が真実であると認めることはできない」としたうえで、「債務者は、上記苦情の存在自体をもって、債権者の就労を正当に拒否することができるとの見解を前提にしているものと考えられる…。しかしながら、非違行為の存在が明らかでない以上は、上記苦情の存在をもって、債権者に対する就労拒否を正当化することはできない」とする。

 次に、②については、債務者にみだしなみに関する規定があり、その規定目的自体の正当性とそれに基づく懲戒の可能性を認めたうえで、「身だしなみ規定に基づく、業務中の身だしなみに対する制約は、無制限に許容されるものではなく、業務上の必要性に基づく、合理的な内容の限度に止めなければならない」ところ、「本件身だしなみ規定は、化粧の取扱いについて、明示的に触れていないものの…女性乗務員に対して化粧を施した上で乗務することを許容している以上、乗務員の性別に基づいて異なる取扱いをするものであるから、その必要性や合理性は慎重に検討する必要がある」とする。そして、「一般論としては、サービス業において、客に不快感を与えないとの観点から、男性のみに対し、業務中に化粧を禁止すること自体、直ちに必要性や合理性が否定されるものではない。しかしながら、債権者は…性同一性障害であるとの診断を受け…(ている)…ところ、そうした人格にとっては…外見を可能な限り性自認上の性別である女性に近づけ、女性として社会生活を送ることは、自然かつ当然の欲求であるというべきである。…そうすると、性同一性障害者である債権者に対しても、女性乗務員と同等に化粧を施すことを認める必要性がある」とする。

 そのうえで、「債務者が、債権者に対し…化粧を施した上での乗務を禁止したこと及び禁止に対する違反を理由として就労を拒否したことについては必要性も合理性も認めることはできない」とし、具体的な請求額については当該事案に関わる事情に照らして減額の上で仮処分請求を認めた。