最近の労使間トラブルに関する裁判例


裁判例43: アルバイト職員と正職員

大阪高等裁判所平成31年2月15日判決(判例タイムズ1460号56頁)

 

 本件は、医科薬科大学に1年更新のアルバイト契約でフルタイムの教室事務員として採用された事務員が,正職員との待遇の格差が労働契約法20条に反すると主張して,第一審では労働契約に基づく差額賃金請求と,不法行為に基づく差額相当の損害賠償を請求した事案である。第一審がいずれも棄却したため,事務員は不法行為に基づく請求に絞って控訴した。

 

 控訴審は、以下のように述べて、待遇格差の一部につき請求を認めた。

 

①基本給については、アルバイト職員は時給制,正職員は月給制という相違は、「どちらも賃金の定め方として一般に受入れられているものである」としたうえで、「正職員は,法人のあらゆる業務に携わって」おり、「責任も大きく」、「異動の可能性が」あった。一方,「アルバイト職員が行う事務」は「定型的で簡便な業務や雑務が大半であり,配置転換は例外的で」あった。「さらに,正職員の賃金は勤続年数に伴う職務遂行能力の向上に応じた職能給的な賃金,アルバイト職員の賃金は特定の簡易な作業に対応した職務給的な賃金としての性格を有していたといえる」と認定した上で、「求められる能力に大きな相違があること,賃金の性格も異なること」および,「その相違は,約2割にとどまっていること」からすると,不合理とはいえないとした。

 

②賞与については、「多様な趣旨を含み得るもの」という認識を前提に、本件での趣旨を検討し、「正職員全員を対象とし,基本給にのみ連動するものであって,当該従業員の年齢や成績に連動するものではな」く、「業績にも一切連動していない」ことから、「賞与算定期間に就労していたことそれ自体に対する対価としての性質を有するものというほかない」と認定した。そして,そこには「一律の功労の趣旨も含まれ」、「就労していたこと自体に対する対価としての性質を有する以上」、「とりわけフルタイムのアルバイト職員に対し,額の多寡はあるにせよ,全く支給しないとすること」は不合理とした。ただし、「賞与には,功労,付随的にせよ長期就労への誘因という趣旨が含まれ」ており、「使用者の経営判断を尊重すべき面がある」こと、および「正職員とアルバイト職員とでは,実際の職務」や「求められる能力にも相当の相違があったというべきである」から「功労も相対的に低いことは否めない」として、正職員「と同額としなければ不合理であるとまではいうことができない」として、正職員「の60%を下回る支給しかしない場合には不合理な相違に至る」とした。

 

 ③年末年始や休日における賃金支給については、「これは,賃金について一方は月給制,アルバイト職員は時給制を採用したことの帰結にすぎ」ず、異なる賃金方式「を採用すること自体が不合理とはいえない」から,差異は不合理とはいえないとした。

 

 ④年休の日数については、正職員が「長期にわたり継続して就労することが想定されていることに照らし,年休手続の省力化や事務の簡便化を図る」必要があるのに対して,「アルバイト職員については,雇用期間が一定しておらず,また,更新の有無についても画一的とはいえない上,必ずしも長期間継続した就労が想定されているとは限らず,年休付与日」を「調整する必然性に乏しい」として、「年休日数の算定方法の相違については,一定の根拠がある上,その結果として付与される年休の相違の日数」は「1日であるという点をも併せ鑑みる」と、不合理なとはいえないとした。

 

 ⑤夏期特別有給休暇については、「我が国の蒸し暑い夏においては,その時期に職務に従事することは体力的に負担が大きく,休暇を付与し,心身のリフレッシュを図らせることには十分な必要性及び合理性が認められ」、また,「多くの国民が帰省」し家族旅行に出かけること」は,公知の事実といえ、本件大学「における夏期特別有給休暇が,このような一般的な夏期特別休暇と趣旨を異にする」事情はない。そして、「アルバイト職員であってもフルタイムで勤務している者は,職務の違いや多少の労働時間」につき「相違はあるにせよ,夏期に相当程度の疲労を感ずるに至ることは想像に難くない」として、「フルタイムで勤務しているアルバイト職員に対し,正職員と同様の夏期特別有給休暇を付与しないことは不合理である」とした。

 

 ⑥私傷病による欠勤中の賃金及び休職給については、本件大学が「一定期間の賃金や休職給を支払う旨定める趣旨は,正職員として長期にわたり継続して就労をしてきたことに対する評価又は将来にわたり係属して就労することに対する期待から、正職員の生活に対する保障を図る点にある」ところ、「アルバイト職員は,契約期間が最長でも1年間である」から「長期間継続した就労をすることが多いとも」,「期待が高いともいい難い」。しかし、「契約期間の更新はされるので,その限度では一定期間の継続した勤務もし得」る。「フルタイムで勤務し,一定の習熟をした者について」は「貢献の度合いもそれなりの存するものといえ,一概に代替性が高いとはいい難い部分もあり得」る。そうすると,「アルバイト職員であるというだけ」で,一律に「支給を行わないことには,合理性があるとはいい難い」とした。ただし、「正職員とアルバイト職員」の「本来的な相違を考慮すると」、「支給について一定の相違があること自体は,一概に不合理とまではいえない」から、「雇用期間1 年の4分の1」を下回る支給しかしないときは不合理であるが、「これを上回るときは,不合理であると認めるに足りない」とした。

 

 ⑦附属病院の医療費補助措置については、「補助措置の対象者は必ずしも雇用契約上の当事者のみというわけではな」く,理事、学部生等広汎な者が対象となっていること,および、「同制度は附属病院を受診した場合に限られること」などを認定したうえで、同制度は「労働条件として発展してきたものではないと考えられ」る。また,「附属病院は,実践を通じての教育」や「医療水準教育水準の向上を目的とするものと解される」ところ,医療費補助制度は、上記目的に「貢献することに対する謝礼」や「関係者等に対する社会儀礼上のものという側面も有する」として、同制度は「一定の関係を有する者に恩恵的に施されるものであって,労働契約の一部として何らかの対価として支出されるのものではない」ことから不合理とは言えないとした。