最近の労使間トラブルに関する裁判例


裁判例51: 産休・育休取得を理由とする解雇

東京地方裁判所平成29年7月3日判決(判例タイムズ1462号176頁)

 

 本件は、従業員が産休及び育休を取得した後、会社が退職勧奨を行ったうえ、協調性不十分を理由に解雇したため、従業員が地位確認と未払い賃金、慰謝料を求めて提訴した事案である。

 

 裁判所は、以下のように述べて、全ての請求を認めた。

 

 まず前提として、解雇に至るまでの事実を詳細に検討し、妊娠の事実以外での従業員と会社との軋轢を認定しつつ、次に、労働契約法16条及び男女雇用機会均等法9条3項、育休法10条の解釈として「事業主において、外形上、妊娠等以外の解雇事由を主張しているが、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないことを認識しており、あるいは、これを当然に認識すべき場合において、妊娠等と近接して解雇が行われたときは、均等法9条3項及び育休法10条と実質的に同一の規範に違反したものとみることができるから、このような解雇は、これらの規定に反しており、少なくともその趣旨に反した違法なものと」なるとした。

 

 そのうえで、軋轢は存在したものの、会社側がそれを根拠に処分を行っていなかったこと、解雇以前の段階での指導による改善を特には試みていなかったことなどを認定して、「労働者に何らかの問題行動があって」も、「上司や同僚の生命・身体を危険にさらし、あるいは、業務上の損害を生じさせるおそれがあることにつき客観的・具体的な裏付けがあればともかく、そうでない限り、事業主はこれを甘受すべきであって、復職した上で、必要な指導を受け改善の機会を与えられることは育児休暇を取得した労働者の当然の権利」であるとした。

 

 そして、本件ではそうした危険・損害は客観的・具体的に示されていないこと等から、「本件解雇は…無効であ」り、また、「均等法9条3項及び育休法10条に違反し…、この意味からも本件解雇は無効というべきである」とした。