最近の労使間トラブルに関する裁判例


裁判例79:無期契約労働者である大学専任教員と有期契約労働者である非常勤講師との労働条件の相違が、(旧)労働契約法20条違反とはならないとされた事例

東京地方裁判所令和元年5月30日判決(判例タイムズ1481号197頁)

 

 本件は、被告である大学との間で有期労働契約を締結し非常勤講師として勤務する原告が、被告において無期限労働契約を締結している専任教員との間で、本俸・賞与・各種手当の点で相違があることは労働契約法20条(当時)に反するとして、損害賠償を求めた事案である(他の争点は割愛)。

 裁判所は以下のように述べて、原告の請求を棄却した。まず、原告と専任教員との間の相違について、「非常勤講師の賃金に関する労働条件が、無期限労働契約を締結している専任教員に適用される本件給与規則ではなく、本件非常勤講師給与規則によって定められていることにより生じているものであるから、当該相違は、労働契約の期間の定めの有無に関連して生じたものである」との判断を行う。

 そのうえで、各種相違について個別に判断を行っていく。

① 本俸

「確かに、原告と専任教員との間には、本俸額について約3倍の差があったものと解される。しかしながら…そもそもその非常勤講師…と専任教員との間には、その職務の内容に数々の大きな違いがある…。」

「このことに加え、一般的に経営状態が好調であるとはいえない多くの私立大学において教員の待遇を検討するに際しては、国からの補助金額も大きな考慮要素となると考えられるところ…専任教員と非常勤教員とでは補助金の基準額の算定方法が異なり、その額に相当大きな開きがあることや…本件大学の非常勤講師の賃金水準が他の大学と比較しても特に低いものであるということができない」、

「本件大学においては、団体交渉における労働組合との間の合意により…非常勤講師の待遇についてより高水準となる方向で見直しを続けており、原告の待遇はこれらの見直しの積み重ねの結果であること」、

等を踏まえると、「原告と本件大学の専任教員との本俸額の相違が不合理であると評価することはできない」

② 賞与及び年度末手当

「これらは、被告の財政状態及び教職員の勤務成績に応じて支給されるものである…ところ、(…①…)において指摘した各事情に加え」、

「本件大学の専任教員が、授業を担当するのみならず、被告…の財政状況に直結する学生募集や入学試験に関する幅広い業務を行い、これらの業務に伴う責任を負う立場にあること」、

等を踏まえると、「被告において…専任教員のみに対して賞与及び年度末手当を支給することが不合理であると評価することはできない」

③ 家族手当及び住宅手当

被告における「支給要件及び内容…に照らせば…いずれも、労働者の提供する労務を金銭的に評価して支給されるものではなく、従業員に対する福利厚生及び生活保障の趣旨で支給されるものである」、

「(…①…)で指摘した各事情に加え、」

「授業を担当するのみならず、大学運営に関する幅広い業務を行い、これらの業務に伴う責任を負う立場にある本件大学の専任教師として相応しい人材を安定的に確保する…ために…福利厚生の面で手厚い処遇をすることに合理性がないとはいえないこと」、

「本件大学の専任教員が…労働契約上、職務専念義務を負い、原則として兼業が禁止され、その収入を被告から受ける賃金に依存せざるを得ないこと」、

等を踏まえると、「本件大学の専任教員のみに対して家族手当及び住宅手当を支給することが不合理であると評価することはできない」とした。