最近の労使間トラブルに関する裁判例


裁判例80:介護職員処遇改善加算金と割増賃金

松山地方裁判所宇和島支部令和3年1月22日判決(判例タイムズ1487号213頁)

 

 本件は、医院や介護施設を運営する法人である被告に雇用され、通所介護施設(デイサービスセンター)で介護士として勤務していた原告らが、被告に対し割増賃金等の支払を求めた事案である。

 裁判所は、被告が時間外勤務割増賃金の支給に介護職員処遇改善加算金を原資とする介護処遇加算手当を充てた点について、以下のように判示した。

 「介護職員処遇改善加算の制度は、介護サービスに従事する介護職員の処遇、すなわち賃金水準の改善のために、介護事業者に対して支払われる介護報酬に加算して金員を支給するものであるから、実際に介護職員に支給される賃金水準が向上(改善)するように取り扱われなければならないのは当然である。

 そうすると、介護事業者が本来当然に従業員(介護職員)に支給しなければならない時間外勤務割増賃金の支払原資に上記介護職員処遇改善加算金を充て、他面においてその分だけ時間外勤務割増賃金の負担を実質的に免れるのは、従業員の賃金水準を向上させることにつながらないから、介護職員処遇改善加算の制度の趣旨に反するものといわなければならない。

 介護事業者の介護職員処遇改善加算金の使用方法の判断にも、かかる限度で制約があるものというべきである。

 また、被告のように介護職員処遇改善加算金を原資にして従業員(介護職員)に介護処遇加算手当を毎月支給する場合、これは時間外勤務割増賃金(時間外労働割増賃金)の算定の基礎に組み込まれるべきものであるから(労働基準法37条5項、労働基準法施行規則21条4、5号参照)、かように支給される金員も加えて算定の基礎となる金額を算出し、この金額に所定の割増率を乗じて時間外勤務割増賃金の金額を算出すべきである。」