最近の労使間トラブルに関する裁判例


裁判例40: 主力事業の廃止と整理解雇

 東京地方裁判所平成30年3月29日判決(判例タイムズ1456号191頁)

 

 

本件は、主力事業を廃止する会社から解雇された従業員が、解雇権の濫用を主張して地位確認と賃金支払いを求めた事案である。

 

裁判所は以下のように述べて、いずれの請求も棄却した。

 

 まず判断枠組みにつき、主力事業の他に不動産賃貸事業を継続し利益を上げていたことから、「会社の全事業が廃止されて会社が解散し、清算手続きに入った場合のように、解雇回避努力義務を考慮する余地がないとまではいえない」とした。

 

 そのため、「本件解雇は、基本的には整理解雇というべきであり、人員削減の必要性、解雇回避努力、被解雇者選定の合理性及び解雇手続の相当性の存否及びその程度を総合考慮して、本件解雇が客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認できるか否か(労働契約法16条)を判断するのが相当である」とした。

 

 そのうえで、①人員削減の必要性について、主力事業につき直近の年度までほぼ赤字であることや、大口取引先との契約打ち切りに至る交渉過程を詳細に認定して、会社が「事業の継続はできないと判断したものであり、この判断は、経営判断としてやむを得ないもの」とした。次に②解雇努力義務について、不動産賃貸業はもともと外部に委託しており、会社従業員は経理担当の1名しか関与していないことを認定して、「不動産の賃貸をその事業として行っていたといえるにしても、これについて更に人員を配置する余地はなかった」し、「委託を止め、不動産の管理を行う部門を創設するなどして、原告らを配転する義務」はないとした。また、配転以外の方策についても、「解雇するにあたり、会社都合退職金に加えて1年分の年収に相当する特別退職金を支払い、再就職支援サービスの使用料を無期限で会社負担とするなどの条件で希望退職を募ったこと」や主力事業終了後も「組合と団体交渉を行っていた期間中は事業撤退前と同額の賃金を支払っていた」ことなどは、「整理解雇の有効性を基礎付ける一事情というべき」とした。

 

そして、③被解雇者選定の合理性は、主力事業の従業員のうち希望退職に応じない全員が対象となるのは当然であるし、④手続きの相当性についても、「交渉態度に不誠実な点は見当たらず、被告が全従業員に対する希望退職募集を開始した時期も含めて、原告らに対する説明等が不相当であったことを基礎付ける事実を認める」ことはできないとした。

 

 したがって、「本件解雇は、客観的に合理な理由があり、かつ社会通念上も相当と認められるものであって有効である」から、従業員の請求には理由がないとした。