最近の労使間トラブルに関する裁判例


裁判例30:定額手当の時間外割増賃金該当性

神戸地方裁判所明石支部平成29年8月25日判決(判例タイムズ1447号139頁)

 本件は、パンの製造、販売等を行う会社(被告)にアルバイト社員として入社し、後に、正社員となった者の相続人が、被告と被相続人の雇用契約に基づき、時間外割増賃金等の支払を求めた事案である。

 神戸地方裁判所明石支部は、以下のとおり判示し、原告の請求を一部認めた。

 被告は、割増手当と調整手当の全額が時間外割増賃金であると主張するが、被告の主張を前提とすると、正社員となった後の被相続人の通常の労働時間又は労働日の賃金は、月13万円であり、これを時給に換算すると748円にすぎず、被相続人の試用期間中の基本給やアルバイト、パート従業員の時給と比べて不合理である上、兵庫県における最低賃金をも下回る低い水準となり、不自然であること、また、試用期間中は、月300時間以上勤務しても被相続人の割増賃金は3万円台であったのが、正社員になると勤務時間は同程度でも9万5880円、調整手当を加えると手当の合計は12万円になった一方で、基本給は23万円台であったのが、正社員になると13万円に下がっていることに照らせば、正社員となった後、被相続人に支払われた割増手当や調整手当の中には、実質的に基本給に相当する部分が含まれていると認められ、被告の主張は採用できない。したがって、被相続人の給与のうち通常の労働時間又は労働日の賃金部分と時間外割増賃金部分とは明確に区分されていない。被相続人に支払われた割増手当及び調整手当は、割増賃金の基礎となる賃金に全額算入される。