最近の労使間トラブルに関する裁判例


裁判例69:懲戒処分を受けた者についての定年後再雇用への期待を保護した事例

名古屋地方裁判所令和元年7月30日判決(判例タイムズ1471号106頁)

 

 本件は、私立大学である被告が、定年を65歳としつつ68歳までの再雇用を定めていたところ、教授であった原告の再雇用希望につき、原告が先立って懲戒処分を受けており、それが欠格事由にあたるとして再雇用を拒否したため、原告が雇用契約上の地位確認、給与相当額の損害賠償、及び慰謝料を請求した事案である。

 裁判所は以下の様に述べて、これらの請求を認容した。

 まず、先だって行われた懲戒につき、経緯を詳細に認定したうえで、「いずれも懲戒事由に該当」しないと判断し、「仮に原告の行為が懲戒事由に該当するとしても…情状酌量の余地があり」、欠格事由を構成する懲戒処分ではない処分である「訓戒に留めるのが相当であった」とした。

 そのうえで、裁判所は、「労働者において定年時、定年後も再雇用契約を新たに締結することについて合理的な理由があると認められる場合、使用者において再雇用基準を満たしていないものとして再雇用をすることなく定年により労働者の雇用が終了したものとすることは、他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情がない限り、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、この場合、使用者と労働者との間に、定年後も就業規則等に定めのある再雇用規程に基づき再雇用されたと同様の雇用関係が継続しているものとみるのが相当である」との最高裁判例を引用する。

 そして、原告の経歴に照らし、「本件処分がされた点を除いては、原告において、定年時、再雇用契約を締結し…雇用が継続すると期待することが合理的であ」るところ、上記の様に懲戒事由に該当しないほか「原告について再雇用を不適当とする事情の主張・立証はな」く、「再雇用の拒否は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」から、「被告と原告との間に、定年後も再任用規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているとみるのが相当である」とした。