最近の労使間トラブルに関する裁判例


裁判例67:じん肺認定されていた元労働者が胃がんを併発して死亡した場合の労災給付申請

福岡高等裁判所令和元年8月22日判決(判例タイムズ1470号56頁)

 

 本件は、昭和55年にじん肺法上のじん肺管理区分管理4を受け、定期的に治療していた元労働者が、平成25年に死亡したため、遺族たる原告が、業務起因性を主張して労災保険法上の給付を申し立てたところ、労基署はじん肺との相当因果関係を認めなかったため、国を被告として不支給決定の取り消しを求めた事案である。

 第一審が請求を棄却したため、原告が控訴したが、控訴審は以下の様に述べて、原告の控訴を棄却した。

 まず、元労働者の昭和55年のじん肺認定からその死亡までの経緯、特にじん肺と胃がんの症状を詳細に認定する。そのうえで、元労働者の「全身状態が急激に悪化して…入院するに至ったのは、従前からのじん肺による肺機能の低下や体力減退に加齢的な要因も加わり、全身状態としては芳しくない状況にあったところに、胃がんからの多量の出血が発生したことによるものと推測され、出血があったと考えられる時期に急激な悪化が見られたことからすれば、こうした複合的な要因の中でも、その全身状態の悪化に胃がんからの出血が寄与した割合が大きいことは明らかである」と指摘する。

 次に、直接の死因となった肺炎については、「肺炎発症はじん肺や胃がんと直接関連するものではなく、全身症状の悪化により易感染性が高まり、招来されたと考えられるところ…肺炎の発症についても、胃がんからの出血が大きく寄与していたということができる」こと、及び「じん肺はそれを持ちなおすことを阻害した背景的な要因として評価されるにとどまる」と指摘する。

 そして、元労働者の「死亡原因となった肺炎は、胃がんからの多量の出血が主たる要因となった急激な全身状態の悪化により招来されたものであり、じん肺の影響がこれを上回るものであるとは認められない」とした。