最近の労使間トラブルに関する裁判例


裁判例61: 転居命令違反と解雇

東京地方裁判所平成30年6月8日判決(判例タイムズ1467号185頁)

 

本件は、従業員が、東京本社から茨城工場に配置転換されてから約1年後に、会社から同工場近くへの転居命令を受けたものの従わず、これを理由とした解雇は無効であるとして、地位確認と命令服従義務の不存在確認、各種未払給付の請求を求めた事案である。

 

 裁判所は、以下のように認めて、その請求を認めた。

 

 まず、転居命令の有効性について、本件会社の就業規則に照らして、会社は従業員との「個別の合意なくして…勤務場所を決定し、勤務先の変更に伴って居住地の変更を命じて労務の提供を求める権限を有する」と一般論を述べる。

 

しかし、「転居は、一般に、労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、…転居命令権…は無制約に行使…できるものではなく、これを濫用することは許されない」と指摘する。そして、その判断には「業務上の必要性」が重要となるところ、「業務上の必要性については、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤労意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは…肯定される」と述べる。

 

 そのうえで、本件においては、「本件転居命令は、本件配置転換の約1年後に出されたもので、原告は、その期間…自宅から…通勤していたこと」、「茨城工場での業務内容は…早朝・夜間の勤務は必要なく、緊急時の対応も考え難…(く)…不在時には他の従業員が…対応することができ…原告が残業を命じられたことはなかったこと」、「原告は片道3時間かけて通勤しているが、交通事故のために休職した期間と一度の電車遅延による遅刻の他は遅刻や欠勤はなく、長距離通勤や身体的な疲労を理由に仕事の軽減や業務の交代を申し出たこともほとんどなかったこと」などを認定した上で、「転居しなければ労働契約上の労務の提供ができなかった、あるいは提供した労務が不十分であったとはいえず、業務遂行の観点からみても、本件転居命令に企業の合理的運営に寄与する点があるとはいえず、業務の必要性があるとは認められない」とした。