最近の労使間トラブルに関する裁判例


裁判例60: 団体交渉中の発言を巡る損害賠償請求

東京地方裁判所平成30年6月27日判決(判例タイムズ1467号172頁)

  

本件は、原告会社とその代表取締役が、組合とその委員長を被告として、組合の掲示物及び委員長の団体交渉中の発言・保全事件における同人の陳述書が、原告らの信用・名誉感情を害したと主張して不法行為に基づく損害賠償を求めた本訴と、他方で、こうした訴えは組合の弱体化を狙った不当訴訟であると主張して、組合側が原告となって、会社側に対して不法行為に基づく損害賠償を求めた反訴から成る事案である。

 

 裁判所は、以下のように述べて、いずれの請求も棄却した。

 

 まず、本訴において、被告らの行為に不法行為が成立するかについて、「労働組合が団体交渉において事実を適示して交渉した場合に、当該事実の適示が結果的に使用者等の名誉・信用を毀損するようなものであったとしても、当該表現行為の趣旨・目的が当該団体交渉や組合活動と関連性を有するものであるか否か、適示事実の真実性、表現態様の相当性及び表現行為の影響等一切の事情を総合し、正当な組合活動として社会通念上許容された範囲のものであると判断される場合には、違法性が阻却される」と述べて、本件における組合側の発言はそれに該当するとした。

 

 他方、反訴において、原告らの本訴提起については、一部の発言が「その表現内容それ自体についてみればおよそ原告らの名誉や信用を毀損するものではないと断ずることができるものではないから、提訴者である原告らにおいてその主張した権利又は法律関係が事実的・法律的根拠を欠くことを知りながら又は通常人であれば容易に知り得たといえるのにあえて訴えを提起したとか、原告らが被告組合の執行委員長…を狙い撃ちし、被告組合の弱体化を図る目的で訴えの提起をしたとまでは認められず、本件本訴の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くとみることはできない」とした。