最近の労使間トラブルに関する裁判例


裁判例47: 出向手当の固定残業代該当性

東京地方裁判所平成29年8月25日判決(判例タイムズ1461号216頁)

 

 本件は、元社員が会社に対して各種賃金や手当を請求した事案である。会社はこのうち出向手当については、就業規則によって固定残業代として支給するとしていること、交通費については、就業規則によって会社が社員に貸し付けるものであり、中途退職の場合は社員負担と定めていると反論した(他の請求については省略)。

 

 裁判所は、以下のように述べて、これらの請求については認容した。

 

 まず、出向手当については、固定残業代と認められるためには、労働契約においてその旨「定められて、残業代ないし割増賃金の性質を有し、かつ、その他の賃金(通常の労働時間の賃金など)と明確に区別されていることで、固定残業代によらない労働契約、労働基準法37条等に基づく通常の計算方法による残業代ないし割増賃金の金額と比較することが可能であることを要する」とした。そのうえで、雇用契約書を合理的に解釈して、本件の社員と会社の雇用契約では、残業代は出向手当とは別に精算されることが定められていると認定した。

 

そして、本件においては「出向手当が固定残業代の性質を有するというに足る労働契約上の根拠があるということはできない」とした。

 

 次に、交通費については、本件では「労働契約の中で賃金の一部として支給基準が定められていると認められるから、賃金にあたる」と認定した上で、先の出向手当に関する就業規則と同様の判断をして、本件就業規則よりも、「労働契約では、交通費は「清算」して支給するものと定めているから、労働契約における定めが優先する」とした。加えて、労働基準法16条は「賠償予定の禁止を定めているところ、使用者が労働者に一定の金銭を貸し付け、一定期間勤続したときにその返還を免除する約定は、形式的な規定の仕方のみなら」ず、諸事情を総合的に判断して決すべきところ、本件での諸事情を具体的に認定した上で、「実質的には労働契約の不履行につき、支給済みの交通費と同額の違約金を定めるものにほかならず、交通費が必ずしも多額にならないことを考慮しても、労働者の足止めや身分的従属の創出を助長するおそれは否定でき」ないから、本件就業規則の効力は否定されるべきとした。