東京高等裁判所平成29年9月7日判決(判例タイムズ1444号118頁)
本件は、私立大学の准教授が2ちゃんねる内の掲示板に同僚教員を批判し、その名誉を棄損する違法な投稿をしたことを理由に懲戒解雇されたことに対して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めた事案である。
東京高等裁判所は、以下のように判示して、懲戒権の濫用に当たるとした。
本件投稿の内容は、Aの実名が書かれているものの、「相当やばい」「捏造」「被害者多数」などといずれも抽象的な表現振りであり、その根拠を具体的に示すものではないから、一般の読者の普通の読み方によれば、誹謗中傷の域を出ない投稿であると読解するものと認められる。このことは、Aの名誉感情の侵害の程度やハラスメントの程度を減ずるものではないが、Aの社会的評価の低下の程度を考える上では、斟酌されるべき事情に当たる。
①被控訴人は、控訴人から、これまで懲戒処分や注意指導を受けたことはなかったこと、②被控訴人は、控訴人から本件懲戒解雇を受け、准教授としての身分を喪失すれば、他大学への転職は困難となること、③被控訴人の本件投稿によって、本件大学において学生に対する指導や運営等において、現に具体的な支障が生じていることを認めるに足りないことも、被控訴人に有利に斟酌されるべき事情に当たるというべきである。
被控訴人にとって有利・不利に働く一切の事情を総合考慮すれば、被控訴人に対して本件懲戒解雇を行うことは、重きに失して客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められない。