近時の重要判例


二重轢過事案と因果関係

福岡高等裁判所令和2年12月8日判決(判例タイムズ1491号81頁)

「民法719条後段の趣旨は、関連共同性を欠く数人の加害行為により損害が生じ、その損害が当該数人中誰かの行為によって生じたことは明らかであるけれども、誰が生じさせたか不明の場合(いわゆる択一的競合の場合)において被害者保護のため、右数人全員に連帯して賠償責任を負わせる規定と解される。

 本件は、第1事故は被控訴人乙川の行為によるものであり、第2事故は亡丙山の行為によるものとそれぞれ区別できる上、第2事故は第1事故がなければ生じていないという条件関係があり、その意味では被控訴人乙川に被害者(控訴人)との関係では損害全部(後述の過失相殺を除く。)につき責任があるのは明らかであるから、加害者不明の場合の被害者の保護を目的とする民法719条1項後段の本来的な適用場面ではないが、花子が第2事故によって死亡した可能性があると認められる場合は、民法719条1項後段の被害者保護の趣旨を踏まえてこれを類推適用することにより、被控訴人丙山らに対し、連帯して賠償責任を負わせることができると解される。

 そして、花子が第2事故によって死亡した可能性があることは、同規定を類推適用するための要件となる事実であるため、その立証責任は控訴人にあるというべきである。」「主に花子の解剖所見に基づく鑑定意見のみならず、その他の各証拠を踏まえて検討すれば、花子は、第1事故により死亡したものと十分推認できるというべきであって、第2事故によって死亡した可能性があるとは認められない。してみると、本件に民法719条1項後段は類推適用できない。」

「以上によれば、被控訴人乙川と亡丙山に共同不法行為は成立しない。」